はじめに
こんにちは。アソビュー!でバックエンドエンジニアをやっている島田と申します。
アソビュー!は、ユーザーへのパーソナライゼーションやリアルタイムマーケティングによる顧客満足度を向上を目的として、カスタマーエンゲージメントプラットフォームの「Braze」を採用しました。この記事では、「Brazeの導入を検討した経緯」「Braze導入にあたって実施したこと」「Braze導入後にサービスにもたらされた効果」などを解説します。
アソビュー!で行ったBraze導入のプレスリリース情報は以下にありますので、ご興味がある方は是非ご覧ください。
カスタマーエンゲージメントとは
カスタマーエンゲージメントとは、企業とゲストとの信頼関係、親密さを表すものです。さまざまなチャネル(アプリ、WEB、メール等)を通じて、顧客との接点によって生まれた対話をより深め、商品やサービスに対するゲストの信頼を高めます。 今回、採用した「Braze」ではカスタマーエンゲージメントについて以下の通りに定義しています。
カスタマーエンゲージメントとは、企業がお客様との直接的で意味のある関係を構築・維持するために行う一連の活動のことです。カスタマーエンゲージメントに優れた企業は、ユーザー生涯価値(LTV)が高く、獲得コストが低いため、長期的かつ資本効率の高いビジネス成長を実現します。先進的な企業は、顧客のプライバシーを尊重しつつ、価値あるメッセージング体験をすべての関連チャネルで提供することで、効果的なカスタマーエンゲージメントを実践しています。これらの企業は、顧客データを活用したカスタマー・エンゲージメント・テクノロジーを用いて、顧客の声に耳を傾け、顧客の行動を理解・解釈し、迅速かつ効果的に行動しています。
引用元: www.braze.co.jp
Brazeとは
Brazeは、サービスやブランドとつながっている消費者に、印象的な顧客体験を提供するためのカスタマーエンゲージメントプラットフォームです。
「プッシュ通知、アプリ内メッセージ、メール、LINE」など様々なチャネルにて、パーソナライズしたメッセージ配信が可能です。 モバイルを中心とした複数の顧客接点において、リアルタイムかつ、一貫性のあるコミュニケーション、 エンタープライズ企業の大量配信も遅延なく配信するスケーラビリティが特徴です。
Brazeの導入を検討した経緯について
アソビュー!では会員数が730万人を突破し多くのゲスト(アソビュー!では利用ユーザのことをゲストと表現しています)に利用されるサービスとなりました。 ただ、ゲスト一人一人に対してのアプローチが気薄となっていることが課題としてありました。
例えば、
ゲストの家族構成、地域、興味に合ったパーソナライズされたメッセージが送れていない
パーソナライズされたコンテンツをメルマガで配信しようとすると、作成コストが掛かってしまったり、現在利用しているメール配信サービスでは1日に360万通しか送信できないため朝一にメルマガ配信をしてもゲストによっては夕方に届いてしまい機会損失に繋がっています。
Brazeを導入することでゲスト一人一人の行動や属性の情報を収集し、さらに1日に360万通しか送信できなかったメルマガが1時間で360万通を送信でき、より多くのゲストにより早く情報を届けられます。
モバイルアプリのローンチに合わせて、アプリ内でのエンゲージメント、WEB、メール、LINE等のチャネルを跨いだ一貫したゲストとのコミュニケーションが取れていない
アソビュー!では2022年8月にモバイルアプリ(iOS/Android)をリリースしました。チャネルが複数になりゲストとのコミュニケーションがより複雑になりました。
Brazeを導入することでチャネル統合ができ、各ゲストへのコミュニケーションの整合性をチャネル横断し各チャネルの反応情報をリアルタイムに反映し連続性のあるカスタマージャーニーに沿ったアプローチを実現。 最適なチャネルやコミュニケーションタイミングをBrazeで判断したり、位置情報をトリガにして、Push通知で購買促進を実現できます。
ゲストが予約・購入しようとして途中で離脱してしまったが、そのタイミングでリアルタイムにメッセージを送れていない
一度は予約や購入をしようとしていて購買意欲が高まっているゲストに対して、アプローチできていないため機会損失に繋がっていました。
Brazeを導入することでBraze内の情報やSDK経由で取れるWEB、アプリの情報だけでなく、施設の空きが出たタイミングやキャンセル情報、天気情報といった外部情報をメッセージ送信タイミングで参照し、 刻々と変化するゲストの”今”と外部情報を掛け合わせ、よりリアルタイムにコミュニケーションが取れるようになります。
上記のことから、アソビュー!では今回「Braze」を導入しました。
Braze導入にあたって実施したこと
今回行った施策として予約・購入画面まで進んだが購入せずに離脱したゲストに対して「お買い忘れはございませんか?」というメールを送信することで、CVを上げる施策を行いました。
Braze導入にあたって以下のことを実施しました。
- BrazeとGTM(Google Tag Manager)の統合
- Brazeと連携させるためのGTM設定
- ユーザの識別
- ユーザのメール情報
- 各画面毎のカスタムタグ設定
- Brazeの設定
- カスタムイベントの作成
- キャンバスの作成
- キャンバスの構築
BrazeとGTM(Google Tag Manager)の統合
アソビュー!では計測にGTM(Google Tag Manager)を使用しています。 BrazeにはGTM用にテンプレートが用意されているため、そちらを利用しました。
テンプレートは2つあり、「初期化タグ」「アクションタグ」というものがあります。
「初期化タグ」はWebサイトにSDKをインストールし、Brazeを追加することができます。 「アクションタグ」はカスタムイベントをトリガーしたり、購入を追跡したり、ユーザーIDを変更したり、プライバシー要件の追跡を停止または再開したりできます。
詳細な手順はBrazeの公式ドキュメントを参考に行いました。
Brazeを導入後、Webページ上でディベロッパーツールを開き window.braze
とするとBrazeがWebページで定義されていることを確認できます。
Brazeと連携させるためのGTM設定
ユーザの識別
ユーザが初めてデバイスを使用してWebページにアクセスした場合、Brazeでは「匿名」ユーザとみなされます。
ユーザを一意に特定する方法として、上記で導入した「アクションタグ」にある、changeUser
タグを使用して一意に特定するためのIDをBrazeに送信することで実現します。
一意に特定することで以下のことが可能となります。
- 同じユーザが別のデバイスで識別された場合、そのユーザのユーザープロファイル、使用履歴、イベント履歴はデバイス間で共有ができる。
- 複数の人が同じブラウザで使用する場合、それぞれに一意の識別子を割り当てて、別々に追跡することができます。プッシュ通知やアプリ内メッセージは、特定のブラウザで最も新しいユーザーのみが受け取ることができる。
具体的にはGTM上でBrazeのアクションタグを使用し、Tag Type
をChange User
に設定して作成します。
ポイントとして、Change Userタグが発効する前にBraze Initializationタグを配信するように設定します。(Brazeの初期化後に発火させる)
Exeternal User ID
が一意に特定するIDで、上記画像の例では userId
としており、これはGTMに以下のような変数を予め作成したものを設定しています。
注意点として一旦ユーザを特定すると、「匿名」ユーザに戻すことはできません。そのため、ログアウト等でIDを変えてしまうみたいなことをすると以降同一ユーザではなく別ユーザとして追跡されてしまいます。
ユーザのメール情報
Brazeでメール送信するためにアソビュー!に会員登録されているユーザのメールアドレスとメルマガ受信可否の情報をGTMのタグに設定してBrazeへ送信します。
GTMのカスタムHTMLを利用して、BrazeのUser
オブジェクトの変数に設定します。
ポイントとしては、Change User
タグを先に発火させてユーザIDを最新化した後に実行させます。
各画面毎のカスタムタグ設定
ユーザが予約・購入画面でどのプラン(商品)を選んだのかという情報をBrazeに送信します。 また、ユーザにメール送信する際のプラン情報の詳細となります。 これを実現するためにBrazeのカスタムイベントを利用してBrazeに送信する情報を設定します。 なお、Braze側にもカスタムイベントとカスタムデータ(変数)の設定を行う必要があります。(後述します)
Brazeの設定
カスタムイベントの作成
カスタムイベントはユーザが行ったアクションを独自に定義して記録・追跡ができます。 各カスタムイベントが発生する頻度の総計や、時間の経過に伴うセグメントの詳細を分析することができ、施策毎の成果などを確認することができます。 また、後述するキャンバスの条件の設定などにも利用ができます。
1. Brazeダッシュボード左の「設定」-> 「設定の管理」を選択します
2. 「設定の管理」から「カスタムイベント」タブ -> 「+ カスタムタグイベントを追加」ボタンを押下します
3. 任意のイベント名を入力します
Brazeの公式ドキュメントに命名規則のベストプラクティスが記載されていましたのでご紹介します。 こちらを事前に確認することをオススメします。
- 命名規則を明確にする
- イベント名の一貫した大文字/小文字の区別とフォーマット
- イベントに同じような名前を付けることは避ける
- Brazeダッシュボードで切り捨てられたり切り離されたりする長いイベント属性文字列は避ける
4. イベントのプロパティを作成します
プロパティを追加することに以下のことが可能となります。
- トリガー条件をさらに限定
- メッセージングのパーソナライズの向上
- 生データのエクスポートを通じてより高度な分析を生成
設定方法は以下になります。
- 「プロパティを管理」リンクを押下します
- 「イベントプロパティを追加する」を押下し、各プロパティを設定します
キャンバスの設定
キャンバス機能を使うとユーザの行動に合わせたメッセージ配信やA/Bテストのような使い方などが可能で、ユーザに対する効果的なアプローチをすることができます。
キャンバスについてもBrazeの公式ドキュメントにベストプラクティスが記載されていましたのでご紹介します。
- 目的を明確にする
- ミックス&マッチ
- より豊かなメッセージを作成する
- ユーザージャーニーをテストする
1. Brazeダッシュボード左の「エンゲージメント」-> 「キャンバス」を選択します
2. 「キャンバス」の「キャンバスを作成」ボタンを押下します
3. 「キャンバスのエクスペリエンスを選択してください」から「キャンバスフロー」を選択し、「続行」ボタンを押下します
4. 基本情報を設定します
基本設定ではキャンバス名とキャンバスを通じて何が行われたらコンバージョンとするかの設定をします。
- 「キャンバス名」を入力し、「コンバージョンタグを追加」ボタンを押下します
このキャンバスを通じて何が行われたらCVとするかという設定を行います。
コンバージョンイベントタイプでは以下の4つの中から選択をします。
- セッションを開始
- 購入
- カスタムイベントを実行
- アプリのアップグレード
今回は、予約・購入まで行った場合にCVとしたいので「カスタムイベントを実行」(「予約完了」という名前のカスタムイベントが発火)を選択します。
5. エントリースケジュールを設定します
エントリースケジュールではユーザをキャンバスにエントリさせる条件を以下の3つのいずれかを設定します。
- スケジュールベース
- アクションベース
- APIトリガー
今回は、予約・購入の直前の画面まで表示したユーザを対象としたいので、 「新しいトリガーアクション」を「Perform Custom Event」と選択し、「予約内容確認」イベントを設定します。
エントリ期間については、何時からキャンバスにエントリさせるかを設定します。
6. 対象ユーザを設定します
対象ユーザーではターゲットとなるユーザーの設定をします。
既に設定しているセグメントをターゲットにしたい場合は「セグメントを選択」から設定します。 ユーザ属性やアクションに絞ったターゲットを指定したい場合は「フィルターを選択」から設定します。
今回はWebページを対象としていますが、 例えばiOSデバイスのみにアプリ内メッセージを送信したい場合は、iOSアプリを選択します。この設定によって、iOSデバイスとAndroidデバイスの両方を使用する可能性のあるユーザーは、iOSデバイスでのみメッセージを受信するようになります。
エントリコントロールでは、ユーザが再度キャンバスへエントリーするための設定や上限数の設定ができます。
7. 送信設定
送信設定ではメール送信に関する情報を設定します。
サブスクリプション設定では以下の3つのいずれかを設定します。
- users who are subscribed or opted in
- ユーザが購買(今回の例では「ユーザのメール情報」で設定したメールマガジンの受信有無)またはユーザが許可した(プッシュ通知等)場合
- opted in users only
- all users including unsubscribed users
また、「Quiet Hours」という設定ではメールを送信しない時間を設定できます。 例えば、夜間は多くのユーザが寝ている時間帯であるため通知などでご迷惑をお掛けしない配慮ができます。
8. キャンバスの作成
「キャンバスの作成」を押下します。すると、エントリールールが確認できます。
これでキャンバスの作成は完了しました。続いてキャンバスの構築を行います。
キャンバスの構築
キャンバスの設定で設定した条件のユーザに対してどのようなステップでアプローチするかを構築していきます。
- バリアントの追加
バリアントではユーザがどのようなステップを行うかの分岐を作成できます。
「バリアントを追加」ボタンからバリアントを作成します。
100%という数字がエントリされたユーザの何パーセントを振り分けるかの数字となり、バリアントを複数作成することでA/Bテストが可能となります。
「Intelligent Selection」という機能があり、定期的なキャンペーンまたはキャンバスのパフォーマンスを1日2回分析し、各メッセージバリエーションを受信するユーザーの割合を自動的に調整する機能です。 こちらを有効にするとBrazeで統計的アルゴリズムを使ってコンバージョンを最大限に引き出すためにパフォーマンスの低いバリエーションを除外し、 従来のA/Bテストよりも高速にパフォーマンスの高いバリエーションを識別して最適化してくれます。
- ステップの追加
バリアントの下部にある「+」ボタンを押下し、「アクションパス」を選択します。
続いてアクション設定を行います。
「評価時間枠」の設定では、このステップに入ったユーザが設定した時間枠内に行ったアクションを評価します。
続いて実際の評価条件を設定します。
ここでは、「予約完了」「予約内容確認」を設定し、予約内容確認画面から予約まで行ったユーザを対象としています。
予約を行っていないユーザについては、その他のユーザに分類させます。
- メッセージの追加
「その他のユーザ」の下部にある「+」ボタンを押下し、「メッセージ」を選択します。
続いてメッセージチャネルを選択します。ここでは「メール」を選択します。
Brazeでは独自に作成したHTMLテンプレートの保存ができ、今回はこちらを利用します。
送信情報、本文を設定します。
Brazeの「Canvas Entry Properties Object」を利用し、動的な情報を設定できます。
これでキャンバスの構築は完了となります。後は、画面右下の「キャンバスを開始」ボタンを押下してキャンバスを開始させます。
実際に届くメールは以下の様な形になります。
Braze導入後にサービスにもたらされた効果
2022/8/22 ~ 2022/9/26までの間の実績として以下の通りとなりました。
全体のエントリ(予約内容確認に来たゲスト)の37%が、予約せずに離脱していました。
その内、
- 予約せずに離脱したゲストの66%にメールを送信
- メールを受信したゲストの半数以上がメールを開封した
- そこから離脱したゲストの17%が実際に予約まで行った(全体のエントリの6%)
これまで離脱していたゲストにアプローチしたことにより、全体のエントリに対して70%程のゲストが予約されました。
予約しようか迷っていた、あるいは忘れていた等のゲストの背中を押すことができることが分かりました。 これまで機会損失していましたが、多くのゲストに「遊び」の機会を届けることができました。
最後に
アソビュー!では、Brazeのように最新のサービスの導入を積極的に行っています。また今回、Braze導入から2週間という短い期間でリリースまで行い、ゲストに届けることができ組織としても自信に繋がりました。 新しいチャレンジや事業のスケールに携わりたい方にはピッタリではないでしょうか!
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