アソビュー株式会社VPoEの @tkyshat です。
はじめに
本記事は、AIの進化による社会の変化やキャリアの考え方についてお伝えしますが、あくまで個人的な視点によるものです。
また、この記事の目的は「AI時代に不安を煽ること」ではなく、変化の中でどのようにキャリアを築いていくかの一助となることです。
変化は確かに不安を生みますが、視点を変えれば新たなチャンスにもなります。過度に不安を抱えるのではなく、未来の可能性を考えていければと思います。
生成AIの普及
2024年10月にアメリカの労働者約5,000人を対象に実施されたインタビューでは、「仕事でAIをほとんど使わない」または「まったく使わない」と回答した63%のグループと、「職場でのAIの利用について、聞いたことがない」と答えた17%のグループに分けられたそうです。
このレポートを読んで驚いたのは、「職場でのAIの普及率はまだ20%程度なんだ」ということでした。
自分の周りでは、会社でもSNSでも毎日のようにAIの話題が出ているので、もっと広く普及していると思っていたからです。
しかし、イノベーター理論に基づくと、この20%という数値はアーリーアダプター層までは取り込めており、すでに「キャズム(普及の壁)」を超えた段階だと言えます。
つまり、AIの普及は一般層にも浸透し始めています。
そのため、現在はAIの標準化が進むフェーズに入っていると考えられます。実際、ここ半年ほどで誰でも簡単に使えるAIエージェントが急速に増え、より多くの人が日常的にAIを活用するようになりました。
この流れは、AIの標準化が着実に進んでいる証だと感じています。
AIをどのように活用していくかは、今後のキャリアにおいて非常に重要なテーマですが、今回はAIの進化によって不確実性がより高まった社会を、私たちはどのように乗り越えていくのか。その視点から考えていきたいと思います。
AIによって変わる能力の価値
AIの進化により、単なる作業効率化を超えた革新が進んでいます。生成AIの登場初期は、簡単な文章の校正やスプレッドシートの関数作成など、身近な業務の効率化が中心でした。
現在ではAIモデルが大きく進化し、市場データの分析による戦略立案など、AIは単なる効率化ツールから、戦略的思考や創造性を支援する存在へと変わりつつあります。
開発の現場でも、簡単な処理であればコード補完で十分に対応できるようになりました。さらに、具体的な実装方針や設計を丁寧にインプットすれば、AIはそれなりに高精度なアウトプットを返してくれます。
最近では、プログラミングだけでなく、不具合の調査やドキュメント作成、ソースコードの解析など、コンテキストを理解する精度も飛躍的に向上しています。
今後、AIのアウトプットを適切に評価できる一定レベルの知識や技術を持つ有識者であれば、「プログラミング」という作業自体は、将来的にAIに任せられるようになるかもしれません。
※ただし、技術力や知識が不要になるわけではありません。AIのアウトプットを正しく評価し、方向性を定めるための能力は必須です。
このように、以前は専門的な技術や知見が求められていた課題も、AIの進化によってより容易に解決できるようになりました。
さらに、AIの活用によって一部の技術の習得にかかる時間も大幅に短縮され、これまでよりも簡単に身につけられるようになっています。
こうした状況により、これらの技術の希少性は徐々に低下し、相対的に価値も下がる可能性はあります。
その結果、キャリアの早い段階で「キャリアクライシス(これまで積み重ねてきたキャリアが失われる危機)」に直面する人が増える可能性があると考えています。
だからこそ、AIで解決できる課題と、AIでは解決できない課題を見極め、人が向き合ったほうが良さそうな課題に注力することが、これからのキャリア形成において重要になっていくと考えています。
人が向き合ったほうが良さそうな課題とは
ハーバード・ケネディスクールのロナルド・ハイフェッツは書籍『最難関のリーダーシップ――変革をやり遂げる意志とスキル』にて、組織の課題を「技術的問題」と「適応課題」の2種類に定義しました。
- 技術的問題 : 既存の知識や技術で解決できる問題で、専門家が主導し、明確な手順や方法で対応可能。例えば、バグ修正や業務フローの調整などが該当し、適切なマネジメントによって効率的に解決できます。
- 適応課題 : 明確な解決策がなく、価値観や行動の変革が求められる問題です。組織や個人が新しい環境に適応する必要があり、試行錯誤を重ねながら解決していきます。文化変革やリーダーシップの転換などが該当します。
参考文献 : 最難関のリーダーシップ--変革をやり遂げる意思とスキル
本書でも述べられていますが、適応課題を技術的問題として誤って取り扱い、既存の知識や手法で解決しようとすると、多くの場合うまくいきません。
適応課題と技術的問題の切り分けは難しいものの、技術的問題はいずれAIが解決できるようになると考えています。
そのため、人間が向きあったほうが良さそうな課題は、より適応課題に比重が寄っていくと考えています。
個人は知識と技術の多様性、組織は人の多様性が生存戦略になる
適応課題の解決がより求められるこの時代を生き抜くために必要なことはなんでしょうか。 不確実な社会に柔軟に適応できるようにするには、
- 個人が多様な知識・技術を身に着け、社会への適応力を上げること。
- 組織は多様なバックグラウンドや視点を持つ人材を受け入れ、異なる知識や経験を統合することで、変化の激しい環境に対応し、持続的な競争力を維持すること。
だと考えています。今回のテーマは個人のキャリアですが、個人が多様な知識や技術を習得する重要性を考えるうえで、組織の多様性とも深く関わっているため、この項目では組織に関しても触れていきます。
まず、組織の事例になりますが、多様性の重要性を示す実例として911事件の際のFBIの失敗が有名かと思います。
CIAは当時、採用基準が厳格であったものの、結果として採用された人材は『白人・プロテスタント・アメリカ人男性』という属性に偏っており、組織としては同質性が高い状況にありました。
テロリストたちはイスラム圏の文化や習慣に基づいて行動していましたが、CIAには中東やイスラムの文化に精通したメンバーがほとんどいなかったため、
「イスラム文化下では意味のある行動」に気づけず、危険が迫っていることを見抜けませんでした。
参考文献 : 多様性の科学-画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織
この事例は、組織の中に異なるバックグラウンドを持つ人材がいることが、危機管理やリスク対応における重要性を示しています。
これは個人においても同様で、多様な技術や知識を経験を通して持つことが不確実な社会を生き抜くうえで重要になると考えています。
私自身も、Javaのバックエンドエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後スクラムマスター、全社のマネージャー、エンジニアリングマネージャー、ベトナム組織のCTOを経て、現在はVPoEという役割を担っています。 キャリアの形成においては、計画的偶発性理論に沿って、様々な機会を積極的に取り入れてきました。その結果、多様な経験を積むことができ、様々な技術や知識を獲得することに繋がりました。
こうした経験の積み重ねにより、スカウトをいただく機会も増えています。しかもその内容は、単なる技術職としてだけではなく、プロジェクトマネジメントや組織マネジメント、さらには海外組織の責任者といった、多岐にわたるものとなっています。
転職する予定は無いですが、自分自身の知識や技術の幅が広がり、それを外部の方々からも評価されていると感じます。
新しい役割に挑戦するたびに、求められる知識や技術を身につけ、適応力を高めることが不可欠でした。この積み重ねがあったからこそ、たとえ一つの技術が時代の変化とともに価値を失ったとしても、別の軸でキャリアを築く選択肢を持てるようになったと実感しています。
適応力を向上するには
個人が多様な技術や知識を獲得し、社会への適応力を高めるためには様々な手段があります。
中でも、「越境」「知識や技術の抽象化」「問いを立てる力」 が特に重要だと考えています。
視野を広げ知識技術を身に付け、応用範囲を広げ、本質的な課題を見極められるようなることです。
越境
変化に強くなるためには、自分の専門領域に留まらず、意識的に越境し、新しい知識や経験を取り入れることが重要です。異なる分野に触れることで、視野が広がり、新しい技術や知識の獲得だけでなく、複雑な課題に対する多角的な視点が身につきます。
知識や技術の抽象化
新しい知識や技術をただ身につけるだけでは、活用の幅は限定的です。重要なのは、獲得したスキルを抽象化し、他の領域にも応用できるようにすることです。
例えば、Javaでのバックエンド開発経験を単なる「プログラミング言語スキル」として捉えるのではなく、「複雑な問題を分解し、最適な解決策を導く力」として抽象化することができます。 こうすることで、同じスキルをプロジェクトマネジメントなど別の領域でも活かせるようになります。
参考文献 : 具体と抽象
問いを立てる力
AIが進化していく時代において、人間が持つべき最大の武器は良い問いを立てる力です。AIは与えられた問いに対しては答えを出せますが、「何を問うべきか?」を決めることはできません。 良い問いを立てられる人は、AIのアウトプットに頼るだけでなく、AIを活用して本質的な課題を見極め、解決に導く人材になれると考えています。
参考文献 : 問いのデザイン
最後に
はじめにお伝えした通り、AIの進化は社会やキャリアに大きな影響を与えていますが、過度に不安に陥る必要はありません。
AIはあくまでツールであり、それをどう活用するかは私たち次第です。自分にできる準備や行動を考えることが大切です。
また、AIに関する情報は日々更新され、多くの情報が溢れています。だからこそ、AIの情報だけに偏りすぎるのは危険です。
同じような意見や考え方ばかりに触れることで視野が狭くならないよう注意してほしいと考えています。
私たちアソビューでも、AIを積極的に活用しながら、個人が新しい知識や経験を得られる機会を大切にしています。 その一環として、キャリアチャレンジ制度という、越境を支援する仕組みを設けています。
この制度では、現在の業務とは異なる役割や領域に挑戦でき、個人の成長と柔軟なキャリア形成を支援しています。
もしこの記事を読んで少しでも興味を持っていただけたら、ぜひカジュアル面談にお越しください。 AI活用の取り組みやキャリア支援の仕組み、アソビューの働き方など、ざっくばらんにお話しできればと思います。