自身の「聞こえ方のクセ」を設計課題と捉える。プロダクトデザイナーが選んだ、攻めの環境デバッグ

こんにちは。アソビューでプロダクトデザインを担当している山中です。

今回は私自身の持つ「聞き取り困難性(LiD/APD)」という身体的特性を、解決すべき「環境のバグ」として定義し、そのデバッグ(最適化)に取り組んだ内容をまとめてみました。 世の中には、聴力に異常がなくても「特定の環境下で言葉が聞き取れない」という特性を持つ人がいます。かつての私がそうであったように、それを「集中力や努力の不足」だと自分を責めてしまっている方も少なくないかもしれません。

都会の喧騒という物理的ノイズを遮断し、開発工程の迷いという思考のノイズをテクノロジーで排除する。この記事が、同じような悩みを持つ方にとって、自身の特性を「デバッグ可能な課題」として捉え直すきっかけになれば幸いです。

前提として

記事を読み進めていただくにあたり、前提となる2つの視点を紹介します。

① 身体的特性:LiD / APD(聞き取り困難症)

聴力検査では異常がないにもかかわらず、騒がしい場所や複数の人が話す環境において、特定の言葉を正確に聞き取ることが難しくなる特性を指します。「音は聞こえているが、意味のある言葉として脳が処理できない」という状態が起こりやすく、情報のインプットにおいて大きな認知負荷が生じます。

② 思考の性質:アナライザー(分析者) / INTJ-A(建築家)

私の適性診断(ミキワメ)および性格診断(MBTI)の結果です。

  • アナライザー:物事を論理的に解明し、データや根拠に基づいた最適解を求める性質。
  • INTJ-A(建築家):常に戦略的で、既存の仕組みを疑い、より効率的で理想的なシステムをゼロから構築しようとする性質。

自分自身の「アクセシビリティ」をデバッグする

プロダクトデザイナーの使命は、プロダクトのユーザビリティを高め、情報を整理することでユーザーの認知負荷を下げることです。アソビューでは、サービスを利用してくださる方を「ゲスト」とお呼びしています。プロとしてゲストのためのアクセシビリティを追求しながら、私自身は、自分という一人の「ゲスト(利用者)」が直面している情報受容の負荷の高さに長年苦しんできました。

実は、これまで身近な人にもあまり話してきませんでしたが、私には周囲のノイズの中で特定の言葉だけを抽出するのが難しいという特性があります。正式な診断を受けたわけではありませんが、自身の「聞こえ方のクセ」をひとつの設計課題として定義し、向き合うことに決めたのです。

自分自身の性質を「アナライザー」として客観視したとき、考え方が変わりました。これは弱点ではなく、解決すべき「設計上のバグ」なのだと。「自分が悪い」のではなく「環境が合っていないだけ」なのだと気づけたとき、デザイナーとしての思考が動き出しました。

コロナ禍という「ノイズレスな検証環境」で見つけた答え

この特性を明確な課題として認識できたのは、コロナ禍によるリモートワークへの移行がきっかけでした。自宅というノイズから遮断された環境で、チャットベースのやり取りに切り替わったとき、脳内への情報のマッピングが、これまでにないほどスムーズになったのです。

これは、自分自身のシステムにおいて「思考のメモリを最適化する(=通知をオフにする)」ことと同義でした。不要な情報の割り込みを遮断し、流入経路を整理したことで、私は初めて自分を正しくデバッグすることができました。

情報の階層(z-index)が崩壊した日常

振り返れば、都会のオフィスや街並みは、私にとって「z-indexがすべて同じ値に設定されたデザイン」のような状態でした。目の前の相手の話し声。まわりのタイピング音。スピーカーから流れるBGM。それらすべてが不透明度100%で重なってなだれ込んでくる。

特に賑やかな居酒屋では、集中力でなんとか相手の声を拾い上げようとしているのですが、時間が経つにつれ、右耳から入ってくる周囲の喧騒が脳のメモリをじわじわと占領していきます。やがて右耳側の感覚が麻痺し、思考が完全にストップしてしまう。CPUが100%に張り付いたまま、強制的にマルチタスクを強いられているような、限界ギリギリの作業でした(いわゆる処理落ちが起きている状態です)。

「土台となる環境」の再設計。思考の「余白」を自らつくる

このバグを解決するため、私はまず「土台となる環境」そのものを再設計しました。高気密高断熱の設計を導入した住環境を構築し、物理的なノイズだけでなく温熱環境というノイズもコントロールすることで、地球環境にも優しい「低負荷な暮らし」を実現しました。

この「ウェルビーイング(Well-being)」を高度に実現した環境こそが、私のクリエイティビティの土台となっています。これは単なる「癒やし」のための移住ではなく、思考のための「メモリ(余白)」を確保するための戦略的投資です。

こうした環境での暮らしは、思わぬ形でアソビューの事業成長に不可欠な「ゲスト解像度のアップデート」をもたらしました。

車が不可欠な生活圏へ移り、自家用車中心のライフスタイルに変わったことで、目的地における「駐車場の有無や料金」といったインフラが、ゲストの予約の意思決定にどれほど強く影響するかを身をもって実感しています。

そうした生活の中で目にしたのが、東京では日常的に目にすることのなかった、質の高い食や体験が詰まった「道の駅」の存在でした。道の駅は単なる目的地(点)ではなく、移動の過程で立ち寄り、地域の魅力に触れる「旅の結節点」です。目的地へ向かう道中を含めた一連のジャーニーを支える拠点があることで、車移動という「線」の体験が劇的に豊かになることを知りました。

都心にいたままでは決して得られなかったこの「線」の解像度は、今の私のデザインにおける大きな武器になっています。

自分専用の情報インターフェースを構築する

フルリモートワークは、私にとって最高のバリューを出すための「自分専用の情報インターフェース」です。以前の記事では情報のストック先としてNotionを挙げていましたが、現在は「Obsidian」を活用し、記憶という負荷を外部化する「第二の脳」を構築しています。

情報を単なる階層として管理するのではなく、ネットワーク状に繋いで整理する。こうした環境設定を一つひとつ突き詰めていくことで、本体の脳は記憶というタスクから解放され、よりクリエイティブな「思考」にメモリを100%割くことが可能になりました。

私にとってこのツールが画期的なのは、仕事の知見だけでなく、私生活のログも同じレイヤーで管理できる点にあります。料理のレシピ、仕事終わりの体調、日々の感謝、あるいは理由のわからない苛立ちまで。仕事と私生活をあえて分断せず、統合し、一人の人間の多面的な記録として蓄積しています。

一見無関係に見える「私生活での気づき」が、偶然のリンクを通じてプロダクトの課題解決に繋がる。あるいは、日々の感情の機微を客観視することで、自身のコンディションをより精密にデバッグできる。この「情報のネットワーク化」によるセレンディピティ(偶然の発見)こそが、アナライザーとしての思考の純度を担保し、複雑なプロダクトの整合性を保つための生命線となっています。

AIによる拡張で、デザインと実装の「ラグ」を完封する挑戦

物理環境やナレッジ管理のデバッグに続き、現在は開発環境のアップデートという新たな「挑戦」の真っ最中です。

現状、ものづくりにおいて無視できない課題の一つに、「デザインの具体化と開発リソースのバランス」があります。プロダクトの優先度に基づき、限られたリソースをどこに割くべきかを日々議論していますが、UIデザインを細部まで磨き上げても、実装が完了するまでには、どうしても一定のリードタイムが生じます。

この間にプロダクトの状況が変化し、せっかく作り込んだUIが他のアップデートとの整合性を失ってしまう……という事象は、開発現場の誰もが一度は経験する、非常にもどかしい「ノイズ」です。

このタイムラグを埋め、「デザイナー側からエンジニアリングの負荷を軽減する仕組み」を作るために、私はAIを自身の思考の拡張として活用し始めています。

もちろん、データベース設計や複雑なバックエンドの実装までをデザインだけで完結させるのは現実的ではありません。しかし、AIとの共創を前提としたデザインシステムを構築することで、「UIデザインの完成と、フロントエンド実装のベース構築をほぼ同期させる」ことは、十分に可能だという手応えを感じています。

AIが迷わずにコードを出力できる「共通言語」としてのデザインシステムを整え、デザインの意図を正確なフロントエンド・コードへと変換可能な状態にビルドすること。それによって、実装のリードタイムを劇的に短縮し、デザインの鮮度が高い状態でゲストへの価値検証を回していく。

これはまだ試行錯誤の段階ですが、AIを思考の拡張として使いこなすことで、フロントエンド実装における停滞や手戻りを防ぎ、開発全体の純度を高める。そんな新しいデザイナーのあり方を、現在進行形でビルドし続けています。

モメンタム(熱量)への貢献を、再定義する

いま、アソビューの組織全体には「モメンタム」を最大化しようという強いエネルギーが渦巻いています。その中で、私は自分なりの貢献の仕方を再定義しました。

全員と同じように声を上げて熱気を分かち合うのではなく、「冷静に、迷いなく、誰よりも速く具体を提示すること」に徹すること。一見、静かに見えるかもしれませんが、これが私なりの「攻め」の形です。

私が一貫した精度と速度で「具体」を提示できれば、チームが議論で迷う時間を最小化し、そのエネルギーをすべて「前進」へと振り向けられます。自分の構築しようとしている仕組みによってチームの些細な足踏みが消え、事業が加速していく。その確かな兆しを感じることが、今の私にとっての大きな手応えになっています。

自分の特性を「制約」のまま終わらせず、ハックすることで組織の「新しい武器」へと変えていく。この地道で戦略的なアプローチこそが、アソビューの持つ「熱量」に対する、私なりの誠実な応え方です。

たどり着いた「最適解」は、プロとしての誠実な選択

アソビューでは、「生きるに、遊びを。」というミッションを掲げています。「遊び」は単なる余暇ではなく、人が豊かに生きるための本質的な価値である。私たちはそう信じています。

このミッションをゲストへ届けるためには、まず作り手である私たち自身が最高のコンディションで、健やかなエネルギーを持ってプロダクトに向き合う必要があります。

自分という一人の「ゲスト」の特性を理解し、最高のパフォーマンスを出せる環境をデザインし直すこと。それは、アソビューのデザイナーとしてミッションを体現し、プロとしてゲストに真摯に向き合うための、私なりの誠実な選択で、成果に責任を持つための「環境設計」そのものです。

アソビューでは、「衣・食・住」という経済側面だけでなく、そこに「遊」という項目を起点とした本質的な価値を社会実装することを目指しています。「遊び」は生きる意味であり、人生の目的である。この掲げられたビジョンをゲストへ届けるためには、まず私たち自身が最高のウェルビーイング(Well-being)を体現し、健やかなエネルギーでプロダクトに向き合う必要があります。

「自分を環境に押し込める」という受動的なフェーズから、自らの環境をもデザインする能動的なフェーズへ。思考の純度と一貫した速度で、これからの「遊び」のスタンダードを共に作っていきませんか?

プロフェッショナルとして自らを律し、最高のプロダクトを追求したい。そんなあなたと一緒に、新しい価値を社会に実装していけることを、心から楽しみにしています。

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