この記事はアソビュー! Advent Calendar 2025 の25日目(表面)です。
- Executive Summary
- はじめに
- なぜ BtoB の AI 活用は分かりやすいのか
- toC プロダクトが向き合っているのは「解釈の世界」
- toC UXの多くは、ユーザーに「意味の補完」を強いている
- UIにAIを置くことと、プロダクトが賢くなることは別
- toCにおけるAI活用の本丸は「意味の構造化」
- 選択肢を増やすのではなく、選択に意味を与える
- なぜ toC で「AIをフル活用している事例」は少なく見えるのか
- おわりに:Advent Calendarの最後に残したい問い
Executive Summary

はじめに
アソビューCPOの横峯(@tyokomine)です。
ここ数年、生成AI・大規模言語モデル(LLM)の進化によって、
「AIをどうプロダクトに組み込むか」は多くのチームにとって避けて通れないテーマになりました。
特に BtoB 領域では、
- 業務効率化
- ドキュメント生成
- 問い合わせ対応の自動化
など、分かりやすい成功事例が次々に出てきています。
一方で、toC プロダクトではどうでしょうか。
チャットUIやAI検索、レコメンドの高度化といった取り組みは見られるものの、「プロダクトの本質が変わった」と感じる事例は、まだ多くないように思います。
Advent Calendar の最後に、なぜ toC プロダクトの AI 活用は難しく見えるのか、そして どこに本質的な活用余地があるのかを、少し立ち止まって整理してみたいと思います。
なぜ BtoB の AI 活用は分かりやすいのか
BtoB プロダクトにおける AI 活用が分かりやすい理由は、実はシンプルです。BtoB では多くの場合、
- 業務フローが定義されている
- 正解・非正解が比較的明確
- 効果が「時間削減」「工数削減」として測れる
という前提があります。
つまり、AI は「既に構造化された世界を、より速く・安く回すための装置」として機能します。
この文脈では、
- 文章生成
- 要約
- 分類
- 自動化
といった LLM の能力が、そのまま価値に直結します。
toC プロダクトが向き合っているのは「解釈の世界」
一方、toC プロダクトが扱っているのは、まったく異なる世界です。 ユーザーが toC プロダクトに求めているのは、
- 正しい答え
- 最適な一手
ではなく、
- 自分に合っていると納得できること
- この選択で失敗しなさそうだと思えること
です。
価格やスペック、機能一覧だけでは、ユーザーは最終的な判断ができません。
「これは自分の状況に合っているか?」 「自分が想定している使い方で大丈夫か?」
この “解釈” のプロセスこそが、toC UX の中心にあります。

toC UXの多くは、ユーザーに「意味の補完」を強いている
ここで一度、普段使っている toC サービスを思い浮かべてみてください。
多くの場合、ユーザーは次のような問いを、無意識のうちに自分で解いています。
- これは「今の自分」に合っているだろうか
- 想定している使い方で問題なさそうか
- 自分の状況(時間・気分・経験値)でも楽しめるだろうか
- 期待しすぎて失敗しないだろうか
ECであれば商品説明やレビューを読み込み、コンテンツサービスであれば作品の雰囲気や評判を推測し、体験やサービスであれば「自分がその場にいる姿」を想像します。
これらに共通しているのは、情報を集めているのではなく、 “意味を補完しようとしている” という点です。
多くの toC プロダクトでは、事実や仕様、コンテンツそのものは提供されていても、「それが自分にとってどういう意味を持つのか」という解釈はユーザー側に委ねられています。
UI やデザインが洗練されていても、この構造が変わらない限り、ユーザーは常に 判断と解釈の負荷 を背負い続けることになります。
UIにAIを置くことと、プロダクトが賢くなることは別
ここ数年でよく見かける toC × AI のアプローチとして、
- チャットUI
- 自然文検索
- 会話型レコメンド
があります。
これらは確かに「使っていて楽しい」体験を作りますが、プロダクト全体を賢くしているかというと、少し疑問が残ります。 理由は単純で、
- 会話は一時的
- 理解がデータとして残らない
- 検索・推薦・分析などの下流に波及しにくい
からです。
本質的な価値は、AI が得た理解が“再利用可能な形で蓄積されるかどうか”にあります。

toCにおけるAI活用の本丸は「意味の構造化」
ここで、toC × AI の議論を一段深いところに進めます。
toC プロダクトが扱っているデータには、実は最初から多くの “意味” が含まれています。
それは必ずしも、説明文やレビューのようなテキストに限りません。
- ユーザーがどんな状況で使っているか
- どんな期待を持って触れているか
- どんな条件だと満足しやすいか
- どんな条件だと失敗体験になりやすいか
- どんな文脈で価値を感じやすいか
こうした情報は、
- 行動ログの組み合わせ
- コンテンツや体験の属性
- 過去の選択とその結果
- 運営側が暗黙的に知っている知見
といった形で、プロダクトのあちこちに分散して存在しています。
問題は、それらが「意味として扱える構造」になっていないことです。
LLM が本当に得意なのは、文章をそれっぽく生成することではありません。
非構造な情報や断片的な事実を、「判断に使える意味の単位」に変換すること です。
AIをUIに置いてユーザーと会話させるのではなく、プロダクトの内側、
意味をデータとして扱える形にする。
ここにこそ、toC プロダクトにおける AI 活用の本丸があります。
選択肢を増やすのではなく、選択に意味を与える
多くの toC プロダクトにおいて、課題は「選択肢が少ないこと」ではありません。むしろその逆で、ユーザーの前にはすでに 十分すぎるほどの選択肢 が並んでいます。
それでも迷いが生まれるのはなぜでしょうか。
問題は、選択肢の数ではなく、
- どれが「自分の状況」に合っているのか分からない
- 何を基準に判断すればいいのか分からない
という 判断の軸や文脈が見えないこと にあります。
ユーザーは本来、スペックや機能そのものを選びたいわけではありません。
- 自分の使い方に合っているか
- 期待している体験が得られそうか
- 想定外の失敗が起きにくいか
といった 文脈に照らした意味 を手がかりに選びたいのです。
たとえば EC やマーケットプレイスでは、同じ商品・体験でも
- 誰向けなのか
- どんなシーンで価値を発揮するのか
- どんな前提条件があるのか
が分かるだけで、ユーザーの判断は大きく変わります。
ここで重要なのは、新しい選択肢を追加することではなく、既にある選択肢に「判断できる意味」を補うこと です。
意味が構造化されると、比較は「スペック」から「文脈」へUX は「操作」から「解釈支援」へと自然にシフトしていきます。
AI の役割は、選択肢を増やすことではなく、ユーザーが迷わず選べる状態をつくること にあります。

なぜ toC で「AIをフル活用している事例」は少なく見えるのか
ここまでの話を踏まえると、冒頭で触れた「toC プロダクトでは AI 活用事例が少なく見える」という違和感には、ある程度はっきりした理由が見えてきます。
まず一つ目は、AIの価値が UI 上に現れにくいことです。
多くの人にとって「AIを使っている」と感じられるのは、
- チャットUIがある
- 会話で何かを教えてくれる
- それっぽい提案をしてくれる
といった、分かりやすいインターフェースを通した体験です。
一方で、意味の構造化やデータモデルの拡張といった取り組みは、
ユーザーからは直接見えません。
結果として、本質的な改善ほど「AIを使っている感」が伝わりにくい という構造があります。
二つ目は、意味の構造化が非常に地味で、時間のかかる取り組みであることです。
意味を構造化するには、
- どんな意味を扱うのか定義し
- どこに散在しているかを見極め
- データとして扱える形に落とし込む
といった、地道な設計と試行錯誤が必要になります。
派手なデモや短期的な成果が出にくいため、どうしても外から見ると「進んでいない」ように見えがちです。
三つ目は、AI活用がプロダクトの表層ではなく、構造そのものに影響するからです。 意味を構造化するという発想は、
- 検索
- レコメンド
- UX
- データ分析
といった複数のレイヤーにまたがります。
そのため、単機能の追加ではなく、DBやプロダクト設計の前提から見直す必要がある ケースが少なくありません。
これは、取り組みとしてのハードルが高い一方で、一度形になると簡単には真似できない領域でもあります。
こうした理由から、toC における AI 活用は、
派手に見える事例ほど本質から遠く、本質的な取り組みほど静かに進んでいる
という逆説的な状態になりがちです。言い換えると、
本当に AI を活用している toC プロダクトほど、AI を使っているように見えない
という状況が生まれます。
おわりに:Advent Calendarの最後に残したい問い
toC プロダクトで AI 活用を検討するとき、
- 「チャットを入れた方がいいのではないか」
- 「ユーザーと会話できるようにした方がいいのではないか」
という発想に行き着くことは少なくありません。それ自体は、とても自然な考え方だと思います。 一方で、そこで一度立ち止まって考えてみてほしいのは、それが本当にユーザーにとっての価値になっているか という点です。
チャットや会話型 UI は、うまく使えば便利ですが、使い方を誤ると次のような状態も生み出します。
- 選択肢や情報がさらに増え、かえって迷う
- 毎回「何を聞けばいいか」を考えさせてしまう
- 判断の責任がユーザー側に押し戻される
結果として、認知負荷が上がり、UX を損なってしまう こともあります。
toC プロダクトにおいて本当に大切なのは、「操作できること」や「会話できること」そのものではなく、
- ユーザーが納得して選べるか
- 不安なく使い続けられるか
- 期待と結果のズレが小さいか
といった 安心感や納得感をどう高めるか です。
そのための一つの考え方として、本記事では
選択肢を増やすのではなく、選択に意味を与える
という視点を紹介しました。
AI を使って新しい選択肢を提示する前に、すでに存在している選択肢が「どんな文脈で、どんな人にとって、どういう意味を持つのか」を丁寧に補っていく。
そうすることで、ユーザーは考えすぎることなく、安心して、快適にプロダクトを使えるようになります。AI を表層的に取り入れること自体が目的になるのではなく、本当にユーザーの判断を助け、体験を良くしているか。
その問いを考えるきっかけとして、「意味を与える」という使い方が、toC プロダクトにおける AI 活用の一つの選択肢になれば嬉しいです。

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