サービス開発経験を経てあらためて振り返る電子チケットの現状と今後の可能性

e-tickets via mobile app

はじめに

はじめまして。今年アソビューにジョインしました大川です。Blogを書くこと自体がこのたび初めての経験でして、稚拙な文章ではありますがどうぞお付き合いください。

今回はアソビュー!における重要な機能のひとつである電子チケットについて、私のこれまでのサービス開発経験と勝手な私見も交えながらこれまでの歴史的な背景を大胆に振り返ってみたいと思います。

電子チケットの導入背景

歴史的な経緯と需要とは

現代では日常の生活の様々な場面に入り込んでいて、もはや珍しいものではなくなった電子チケット。電車・地下鉄・バスのような公共交通機関や航空券への導入により、世代を問わず社会全体に普及したと言えるでしょう。また、興行イベントやレジャー施設、映画鑑賞チケットなどのエンターテインメント産業にも同様に普及していますが、歴史を辿るといずれの産業でも2000年代初頭からその動きが国内で活発になっていったようです。

本記事では私が前職のチケット販売会社でサービス開発を経験してきた興行イベントやレジャー施設向けの電子チケットに絞って論じていきたいと思います。やはり興行イベントの世界でも同様に2000年代の中盤にはすでに導入の動きはあったもののまだ限定的でかつ試験的なものであり、ごく一部の先駆的なプレイヤーが紙のチケットに替わる次世代のサービスのあり方を模索していた時代でした。

背景としては1人1台が当たり前になっていった携帯電話の普及が挙げられます。ただし当時一般普及していたモバイルデバイスはガラケーです。老いも若きも皆ガラケーまたはPHSでおサイフケータイの利便性(タッチしてシャリ~ン)を謳歌していた記憶が思い起こされます。私が関与した初めての電子チケットサービスは当時まだ主流のガラケーに100%近い搭載率を誇っていたFeliCaチップを用いて非接触型の読み取り機器で着券するタイプでした。年間数えるほどの導入公演数に留まりビジネス的な貢献価値はさておき....国内興行イベントの電子チケット黎明期を体感できたのはいい経験となっています。

それからほどなくしてスマホ普及の足音が着実に聞こえてきます。「スマホは一旦無視(サービス対象外)しましょう」ともいよいよ言ってられなくなってきた時勢に最もフィットしていたのはQR(バーコード)読み取り型の電子チケットサービスです。QRコードを画面表示する機能要件であればスマホ、ガラケー、或いは懐かしのBlackBerryなんかであっても機種を問わず概ねカバーすることができるうえに、FeliCa搭載有無などゲスト側機器の対応可否に気を配る必要もなくなります。導入ハードルはやがて一気に下がりQR読み取り型が電子チケットの主流へと発展していきます。なお現在の興行イベント会場やレジャー施設においてジャンルを問わず、また国内外をも問わず一定の導入シェアを持っているQRチケットが当面グローバルスタンダードであり続けることには疑いの余地はないでしょう。後述しますが、国内の興行イベントでは独自のニーズと市場環境に応じたいくつかの電子チケットサービスが2010年代以降に登場していきます。

ではなぜ当時の興行イベントにおいて紙チケットを電子化する必要性があったのでしょう?単純な目新しさや先進性をゲストに対する売りにしたいという意図も一部あったと推察します。しかし最も重要な理由に挙げられるのは紙であることで随所で起きる非効率の解消でした。興行イベント成立の重要なファクターであるチケットが紙であるが故の非効率さを合理化するニーズはもともと多く存在しており、テクノロジーの発展がそれを可能にするレベルまで来たことで流れが一気に加速していったという背景があります。

紙チケットとの比較から見る電子チケットの利点

では今も無くなることのない紙のチケットと比較して、電子チケットが解消する非効率とは何でしょうか。まずはチケットを購入する利用者の視点から見ていきます。

  • 発券手続きが不要になり、自分の端末に表示またはダウンロードする操作だけで入手できる
  • チケットの紛失や当日持ってくるのを忘れてしまうことがなくせる
  • 分配機能があれば同行者に会うことなく事前に渡せるので当日待ち合わせしないで済む

いかがでしょう?ここで挙げた利便性は実際に体験した方も多いんじゃないでしょうか。というより既に一部のジャンルではそれが当たり前になっていて、もはや利便性と捉えられることもないぐらいに普遍的なサービスになっているのかもしれません。では、興行イベントの主催者の視点ではどうでしょう。

  • 着券数のリアルタイム把握
  • 当日の入場時間短縮、効率アップ
  • もぎりスタッフの手間削減や効率的な配置
  • チケット偽造や不正転売の抑止

一般にはあまり意識されづらいですが、着券数がリアルタイムに把握できることでライブ公演において開演時間の開始判断が容易になるという利点があります。天候や交通機関の遅れや物販混雑などによって来場者がまだ会場に収容されきっていない、所謂バタついた状況が着券数から分かります。開始を多少遅らせてお客様がある程度落ち着いた状態からスタートできるかどうかが当日のイベントの盛り上がり、満足度を左右するそうです。またこういった開始の遅れをできるだけ未然に防ぐために入場効率を上げることが電子チケットに求められる役割であるとも言えます。レジャー施設においても着券数が日々の精算業務と不可分な業務フローであることは多く、着券数がリアルタイム且つ正確に管理されていることはそのまま業務効率化に直結する要件といえます。

次に、もぎりスタッフの手間については明確な削減効果があります。紙の場合はすべての券面記載文言を目視で確認したうえで、当日のイベントのチケットであることだけでなくこのゲートで通して良い券種か、大人子どもの種別どおりの人が来場しているのか、まとめて手渡しされた場合に枚数と人数は合致しているか.....など意外にチェック要素は多いにも関わらずスタッフが目視して判断するための時間は極めて限られています。正確なゲートチェックを目視で数時間続けるのは心理的にも負担ですので、人間の判断力を補完してくれる電子チケットが担う役割は大きいです。

余談ですが、野球場やスタジアム会場では当日の来場者数をスクリーンに映し出す演出を見たことがある人も多いと思いますが、もし仮に全ての来場者が電子チケット(またはゲートチェック機器が電子化されている会場)であった場合リアルタイムに集計された数を報告するだけで容易に実現できます。ひと昔前、すべてが紙チケットで半券をもぎっていた時代の来場者数発表は数万枚におよぶ半券を毎試合、大人数が手分けで数えていたことを思うと隔世の感があります。膨大だった手間が減ることでスタッフ人数の調整や効率的な配置が可能になり、コスト削減効果も期待できるでしょう。

最後に挙げた偽造や転売抑止については現在進行形の課題でもあります。電子チケット導入側が取り組む転売対策の強度は年々進化しているのが現状で、そうせざるをえないほど転売を試みるケースが後を絶たない状況が背景にあります。しかしながら紙チケットほどには容易に転売行為がおこないづらいという点では一定の効力があるものと言えるでしょう。

国内の電子チケットの主な特徴と類型

国内の電子チケットは独自のニーズと市場環境に応じた独特な発展を遂げていった過程があり、グローバルではQR(バーコード)スキャンタイプほぼ一択であるのに対して多様な形態の電子チケットが今もイベントジャンルや規模に応じて採用されています。僭越ながら下表にて類型化をしてみましたが、日進月歩で進化し続けている過程にあるものの全ての特徴を表現しきることは難しいです。

今後どうなるかまるで予想もつかないNFTチケットなるものも複数サービスが始まっていますし、QRコード画像が一定秒数ごとに切り替わりスクショを撮っての不正転売を抑止するタイプもあったりします。マイナンバーカードを使った個人認証強化をイベントチケットに応用する実証実験などもおこなわれています。個別の検証と解説を深めていくとちょっと膨大になってしまうのでそれはまた別の機会に譲りたいと思います。

タイプ 着券方法 利点 課題
QR(バーコード)スキャン 専用の読み取り機器によるスキャン 他産業でも一般普及していて認知があり迷いにくい、専用アプリが不要 現地ゲートに専用機器が必要、通信環境に依存する
スマホ画面もぎり(ダウンロード型) スタッフが画面上でもぎり操作 現地に一切の機器準備が不要、通信環境に依存しない 専用アプリのインストールが必要
スマホ電子スタンプ スタッフが画面上に電子スタンプを押す 手軽な操作で正確な認証 専用アプリのインストールが必要
生体認証系 専用の読み取り機器による顔や指紋の照合で認証 偽造や不正転売への抑止効果 生体情報の事前登録などゲストの手間、現地ゲートの機器設置やデータセットアップの準備コスト

課題と解決策

通信環境に依存する問題はいまだに厄介

これまでの経験から、電子チケットでしばしば挙げられる課題はやはり現状では「通信環境依存」の問題となります。QRスキャンタイプであればQRチケットを表示するゲスト側にも、読み取り端末を保有する主催者側にも両面でケアが必要な課題です。まず大前提として入場オペレーション運営の安定性維持には可用性の高い通信環境の確保が必要です。レジャー施設や大規模イベントでは数万人が押し寄せる会場の周辺でMNOが提供する通信回線がひっ迫して、通信状態が急に不安定化する現象がよく見られます。

ここで取れる対策は主に2つで、ゲスト側ではQRチケット画面にWalletアプリへの保存リンクを設置(iOSであればWalletアプリ、AndroidであればGoogleウォレットアプリ)することで、これは比較的簡易な画面修正で対策をおこなうことができてデメリットも特段無く有効な対策です。開発無しでもっと簡易に「会場来る前にスクショ撮っといてね!」という旨のメッセージを画面内やメール配信で注意喚起することもあります。ただし当日現地で通信が不安定化した最中ではWallet保管操作やスクショをする画面にたどり着けず問題は解消しないため、あくまで事前の訴求が届いた人のみとなり効果は限定的です。

他方でチケットをスキャンする主催者側の対策は、ゲート周辺一帯をカバーする独自の通信環境の安定性を高密度Wi-Fiなどで確保することになります。当然ながら機器設置やネットワークインフラの調達であったり電波強度を検証するテスト期間の確保など相応のコストを要するため、数日限りのイベントのためにおこなうことはまずないでしょう。これは年間通して多数利用が見込まれる大規模な固定会場に限った対策となります。

この問題を背景に登場したのがスマホアプリにダウンロードするタイプの電子チケットです。ゲストは事前にアプリにチケットデータをダウンロードしておくことで当日現地での通信状態に依存せずチケットをスタッフに提示することができますし、もぎりスタッフも読み取り機器を用いることなく画面上の操作で着券処理が完結します。スマホアプリタイプの電子チケットは全国各地の会場を移動して回るツアー形式の音楽ライブや野外で行われるイベントでのニーズを捉えて導入が進んだ背景があります。

利用者の手間と不安

サービス提供者側として特に意識しないといけないなと思っていることは、「電子チケットってまだまだ面倒だし不安」と世間一般には思われている事実とそれに常に耳を傾け改善し続ける覚悟です。スマホも年代問わず普及しているから操作に迷うこともないだろう、このチケットサービスは何年も続いて利用者数もアプリインストール数も伸びているから認知もされて利便性も行き届いているだろう、などと思ってしまいがちですが実態は「そうでもない」と気づかされることがしばしばあります。

よくあるケースを挙げると、事前にダウンロードしておく必要があることに気づかなかった。それ以前にスマホにアプリインストールが要る事にも気づかれなかった。スクショで大丈夫だと思ってたらダメだった。同行者がスマホ持ってないから渡せない。アプリを消したらチケットごと消えてしまった。電話番号が変わったせいで本人認証ができない。などなどこれはほんの一部です。。QRチケットに比べるとまだ歴史も浅くライブイベント業界で統一規格化がされているわけでもないために、落とし穴にはまってしまった人が不信感を抱き不安になってしまうのは残念ながらやむを得ないところでしょう。

チケット提供会社が複数あり、それぞれが独自の電子チケットサービスを提供しているために、類似点もありながら全てが少しづつ異なるUI・UXになっています。また、基本的に利用者側が好みの電子チケットを選択できることはなく、どのチケット販売会社で購入したかが利用する電子チケットに強く紐づいています。

少しだけ踏み込むと、あるアーティストのライブイベントのチケットが発売される場合には、必ずしも毎回同じチケット販売会社が採用されるとは決まっていません。去年のツアーと今年のツアーでチケットを独占的に販売する会社が異なるようなケースはそう珍しいことではないので、利用者側はその都度ちがう電子チケットを学んで利用しないといけないという現象が起こります。こうなると利用を重ねる事で得られる学習効果が得られづらく、前述の「電子チケットってまだまだ面倒だし不安」につながってしまうものと考えられるのです。

交通機関や航空券などは”自分で買って自分で使う”ことが多く、また反復して利用する機会があることで学習効果も得やすいですね。興行イベントでは熱心なファンの方や積極的に多くのイベント参加機会を得ようとする人もいますが一方で、友人知人から誘われて予備知識があまり無いまま当日会場に来たはいいものの、必要な準備にゲート付近でようやく気づき慌てて対応を余儀なくされるケースが散見されます。残念ながら一部の入手困難なイベントチケットに対しては依然として不正転売の対策を取らざるを得ない状況にあり、事前にかなり多くの注意事項や禁止事項を読み込んだうえで購入手続きを取る必要に迫られます。

また当日会場でのゲートチェックでも厳然としたルールが敷かれることがあり、ルール遵守を徹底しているイベントにおいては仮に正当なチケット購入者であっても現場での救済策が尽きてしまうと悲しいことに入場を拒否されることが起きてしまいます。私自身も現場サポート要員としてトラブル対応にあたった経験が数多くありますが、熱心なファンの方から入場トラブル対応時に猛烈にブチ切れられ平身低頭お詫びし続けながら不条理さを感じることもありましたし、万策尽きてしまって途方に暮れて泣きながら帰るお客様を見送るしかなかったときの無力感といったらそれはもう辛いものでした。。サービスをより良く改善し続けることで少しでも現場の悲劇が無くなることを願うばかりです。

余談が長くなってしまいましたが、電子チケットにはまだまだ課題とともに進化の伸びしろがあるともいえるので、その余白を埋めていけるようサービス提供会社として日々精進しなければなりません。

未来展望

ここまでで電子チケットの過去と現在をあくまで私個人の視点で振り返ってみました。単なる紙チケットの代替としてだけではなく利用者の利便性を高め、イベント主催者の運営効率を上げてきた点でとても有効であり、今後も課題を解決しながらサービスの充実を図る事で利用の拡大は見込まれるでしょう。ただ、現在からの地続きの視点で大きな変革を起こせるでしょうか?既におこなわれている取り組み事例などから、未来の可能性を考えてみます。

リセールサービスとのスムーズな統合

電子チケットとリセールサービスとの統合については、欧米のスポーツチケットの事例が参考になります。米国メジャースポーツ(NBA、NFL、MLB、NHL)、英国プレミアリーグ、テニス4大大会などで公式サービスとして導入されていて、もはやあって当たり前のレベルまで普及しつつあります。ファンはとても手軽にチケットの売買を1つのプラットフォームでおこなうことができるため、購入した後に観戦が出来なくなった場合も簡易な手続きでいつでも即時出品がおこなえますし、チケットを入手したい人は通常販売分に加えてリセール出品されたチケットも含めた座席を1つの会場図の中で横断的に探すことができるのです。

国内にある紙チケットを対象にしたリセール出品サービスでは一度物理的に発券したものを出品するための郵送手続きや時間的制約が大きなネックとなり認知と普及は現状では限定的です。必ずしもすべてのイベントがリセールサービスの対象になっているわけでもないため、もし行けなくなった時の策としてはフリマサービスや金券ショップでの売却などの方が想起されやすい(サービスによってはチケットの出品ルールに厳格な規定があるのでご注意を)のではないでしょうか。また欧米と国内の大きく異なる事情として、国内イベントの主催者公認リセールサービスは定価以内の価格で二次流通させることを慣習としているため、価格の弾力性が無く流通量が欧米ほどには伸びにくい実情もあります。

これら一筋縄ではいかない課題がありながら、価格の弾力性についてはスポーツ領域でダイナミックプライシング(DP)の普及が国内でも目立ってきており課題解決の可能性が出てきています。現状では必ずしも電子チケットを前提とするものばかりではないものの、将来的には欧米で見られるような「電子チケット×リセール×DP」がシームレスに統合されるサービスが普及していくことで、利用者の利便性とともにイベント主催者の収益力が底上げされる可能性を感じています。

偽造防止とセキュリティ向上

偽造防止については前述の通り、紙を電子化する技術の進化によって既に一定の効果が得られたわけですが、更にもう一段の進化を求めるならブロックチェーン技術の導入が有力候補です。これは上記のリセールサービスの進化とも組み合わさる可能性を秘めていて、ブロックチェーン上で流通するチケットは確実に本物であるという認証基盤になると同時にトレーサビリティの点でも「誰から誰にいくらで流通したもの」かという履歴が追えるようになり二次流通の透明性を保証できるようになるためです。この領域はまだ実証実験レベルでも事例を多くは見ないため、先行き不透明ながら未来の可能性を感じる領域ではあります。

データ分析とファンエンゲージメントの進化

電子化される事で大きく促進される領域としてデジタルマーケティングの活用も見逃すことができません。イベント主催者はファンの嗜好性や行動データを収集し、分析することが可能になります。チケット画面やアプリ内にパーソナライズされたおすすめ情報や関連商品・サービスのプロモーションを行うことができますし、マーケティング利用のみならずファンエンゲージメントを向上させるための戦略やプロモーションが構築されることで、よりパーソナライズされた体験価値の提供が可能になっていくでしょう。

おわりに

いかがでしたでしょうか。かつての記憶や体験を頼りにしたエピソードも交えて電子チケットサービスの過去、現在、未来までを多少大胆に考証してみました。古い話で事実誤認があったらごめんなさい、先に謝っておきます。ただ、未来のパートは密かな期待(野望?)も込めて書いています。今後の進化には一介のユーザーの立場からも楽しみでしかないですが、アソビューも電子チケットサービスを提供している立場ですので、この進化の過程にある電子チケットの歴史に関わり影響を与えることができるなら光栄なことですし、これもまた楽しみであります。

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