はじめに
こんにちは、アソビューでQAエンジニアを担当しております、石川和尚です!
私は主に品質改善プロセスの立案やテスト設計、実行を担当しており、テストの効果的な実施と品質向上に向けて日々取り組んでいます。
その中で、今回はテストの妥当性評価について焦点を当てていこうと思います。
テストの妥当性評価とは、テスト活動が製品の品質評価に対してどれだけ効果的で信頼性があるかを確認することです。しかし、適切なテストケース数やバグ検出数が見えてこないと、やみくもにテストケース数を増やすことになり、リソースを無駄に消費する恐れがあります。また、必要な不具合が十分に発見されているかを評価する基準がない場合、テスト後も潜在的なリスクが残っているのではないかという不安がつきまといます。このような課題に直面する中で、プロジェクトごとに適切なテストケース数やバグ検出数を導き出す方法が求められていました。
これらの課題に対して「ゾーン分析」という手法を導入しました。ゾーン分析とは、システムをテスト密度やバグ密度ごとにゾーン分けすることで品質状態を把握する手法です。この手法を使うことで、必要なテストケース数やバグ検出数を定量的に評価し、テスト妥当性の精度を向上させることを目指しています。
本記事では、このゾーン分析を活用してどのようにテスト妥当性評価を行ったか、その手法や成果について紹介します。テストの妥当性評価に課題を抱える方々の参考になることを願っています。
ゾーン分析とは
ゾーン分析は、「テスト密度」と「バグ密度」という2つの指標を用いて、テストの妥当性を評価する手法です。
テスト密度
テスト密度とは、開発規模に対して実施されたテストの量を示す指標で、通常は「テストケース数 ÷ 開発規模」で算出されます。テスト密度が高いほど、開発対象に対するテストの充足度が高いことを意味し、逆に低い場合は、テスト不足の可能性を示します。これにより、テスト密度はプロジェクトにおけるテストの網羅性や徹底度を評価する重要な指標となります。バグ密度
バグ密度は、開発規模に対して検出された不具合の数を示す指標で、「検出バグ数 ÷ 開発規模」で計算されます。バグ密度が高い場合は、該当の範囲で多くの不具合が見つかっていることを示し、品質の問題が潜在する可能性を表します。逆に、バグ密度が低い場合は、一見して品質が良好であるように見えますが、テスト密度と組み合わせて評価する必要があります。低いバグ密度であってもテスト密度が十分でない場合、隠れた不具合が潜在しているリスクがあるためです。
このテスト密度とバグ密度の2つの指標をもとに、テスト対象のプロジェクトを以下の9つのゾーンに分類することでそれぞれのゾーンにおけるテスト密度とバグ密度のパターンを視覚的に把握することができます。
ゾーン分析で解決できる課題
テストケース数は妥当な量か?
ゾーン分析を通じてテスト密度を可視化し、開発規模に対するテストケース数が過剰または不足していないかを定量的に評価します。これにより、テストケース数がプロジェクトの規模と内容に適しているかどうかが明確になります。
バグ検出数が適切な量か?
各ゾーンにおけるバグ密度の傾向を分析することで、プロジェクトの品質状態をより的確に把握し、必要なバグ検出数が達成されているかを判断します。これにより、テスト後の不安を軽減し、テスト結果への信頼性が向上します。
分析方法
事前準備:基準値を決める
過去のプロジェクトのテスト結果やバグ検出データをもとに、テスト密度およびバグ密度の平均値を算出します。それを基に各ゾーンの上限値・下限値を設定します。
※上限値・下限値の設定方法はいくつかありますが、私のチームでは四分位範囲に基づいて上位25%と下位25%を上限下限の分位点に設定しております。
1.データを収集する
以下3つのデータを用意する。
・開発規模
・テストケース数
・バグ数
2.バグ密度、テスト密度を算出する
以下計算式でそれぞれの密度を算出する。
バグ密度=検出バグ数(件)÷開発規模
テスト密度=テスト件数÷開発規模
3.ゾーン分析実施
マトリクスに当てはめて品質状況を可視化する。
各ゾーンの特徴
ゾーン1:良好な結果
状況
テスト密度・バグ密度ともに適切な範囲内。
判断
テスト工程および設計・開発工程の品質が適切と評価できます。
対応
品質良好と判断できるため、検出した不具合の結果から重大なバグが存在しないかを、念の為確認します。
ゾーン2、4:テスト密度が高くバグ密度が低い
状況
テストが十分に実施されている一方、バグがほとんど見つかっていない状態。
判断
テスト効率が悪い可能性があります。特にゾーン4ではいつもの傾向値よりもバグ密度が低いためバグがまだ潜在している可能性が高いです。
テストに問題がなければ、設計や開発工程がうまく機能しており、品質は良好と判断できます。
対応
テストケースの妥当性や網羅性に問題がないかを確認します。
ゾーン3、9:テスト密度が低くバグ密度も低い
状況
テストが十分に実施されておらず、バグもあまり検出されていない状態。
判断
品質を評価できるだけの情報が不足しているため、さらなるテストが必要と判断できます。
対応
・テストケースの網羅性を確認し、観点やケースの抜け漏れがないかチェックします。
・追加テストを実施し、より確実な品質評価を行います。
ゾーン5・ゾーン6:テスト密度・バグ密度が共に高い
状況
テストが多く行われ、同時に多くのバグも発見されている状態。
判断
検出されたバグの内容を、開発の難易度やテスト環境の影響を考慮して確認する必要があります。
バグ検出数がテスト終盤に向けて収束しているようであれば問題ないと判断できます。
対応
・検出されたバグが適切なものであれば、特定の機能や担当者ごとにバグ密度を確認します。
・テスト密度が高いため、不要なテストケースを削減し、次回以降の効率化を図ります。
ゾーン7・ゾーン8:テスト密度が低くバグ密度が高い
状況
テストが不十分にもかかわらず、多くのバグが発見されている状態。
判断
設計や開発工程に問題がある可能性が高く、追加テストが必要です。
対応
・追加テストでさらにバグが出る可能性が高いため、早期にバグの内容と原因を確認し、追加検証範囲を検討します。
・テストケース数が少ないため、テスト対象や確認観点の網羅性を確認します。
・開発工程に課題がある場合は、潜在的なバグの発見に備え、早急な改善を検討します。
アプローチと効果
テストプロセス初期段階で妥当なテストケース数検討
開発規模に応じた適切なテストケース数をプロジェクトの初期段階で算出し、テスト工数の見積もりを行っています。
これにより、プロジェクト規模に合わせたリソース配分を効率的に計画することができます。
また、事前に具体的なテスト数を把握できるため過不足のないテスト実施が期待できます。
品質状況可視化ダッシュボードの作成
品質状況をリアルタイムで把握できるダッシュボードを導入し、チームに日次で情報を共有しています。
これにより、進捗の遅れやバグの集中などの品質リスクを早期に検知し、必要な対応を速やかに開始することができます。
また、リアルタイムでの可視化により、品質状況を一目で確認できるため、プロジェクト全体の健康状態を把握する効率が大幅に向上します。
ゾーン分析結果の活用
ゾーン分析の結果から品質状況を評価し、追加テストの検討や見落とされているバグの特定などを実施しています。
これにより、必要なテスト項目の増強や重点領域の見直しが行えるため、品質リスクへの低下や次回以降のプロジェクトでの品質問題に対しても効果的にアプローチすることが可能になります。
こうした継続的な対応によって、製品全体のテスト網羅性と品質信頼性が向上します。
今後の課題と展望
ゾーン分析の結果をもとに、プロジェクト実施後には開発プロセスの改善に活用し、再発防止や品質向上に役立てていきたいと考えています。
たとえば、頻繁にバグが検出される領域やテスト密度が不足しがちな領域の特性を明らかにすることで、事前にリスクの高い箇所へ重点的なテストやレビューを組み込むことが可能になります。
また、ダッシュボード機能の強化も重要な課題と考えています。
具体的には、テスト密度とバグ密度の変動をリアルタイムに追跡することで潜在リスクを見逃さずに発見できる体制を築いていくことが目標です。
さらに、過去のプロジェクトにおける分析結果や実績から最適なテストケース数を推測したり、バグ発生の可能性が高い領域を識別したりする仕組みも視野に入れています。
このようなテスト妥当性評価の高度化を進め、リソースを効率的に活用しながらも高い品質を維持する体制を目指していきたいと考えています。
まとめ
ゾーン分析は、テスト妥当性の定量的評価において非常に効果的な手法であり、テストケース数や不具合数の妥当性を判断するための重要な指標を提供してくれます。
ゾーン分析を導入することにより、適切なテストケース数や不具合数の傾向が見える化され、テスト実行の効率化や品質向上が可能となりました。
また、ゾーン分析により品質状況がリアルタイムで可視化されるため、早い段階から必要な追加テストを迅速に検討し、品質リスク低下への対応を実現しています。
加えて、日次の品質状況共有によりチームでの情報共有がスムーズに行われ、品質改善の推進が一層容易になりました。
今後も、この手法を活用し続けるとともに、さらなるデータ活用の工夫や自動化によって、テストの妥当性評価を強化していきます。
最終的には、プロジェクトに応じた最適なテストプロセスを確立し、品質向上とリソース効率のバランスを取った持続可能なテスト実施を実現することを目指しています。
さいごに
アソビューでは、「生きるに、遊びを。」を実現するための良いプロダクトを世の中に届けられるよう共に挑戦していく様々なエンジニアを募集しています。
QAエンジニアについても、上記のような課題を一緒に解決するための仲間を増やせたらと考えています。
カジュアル面談のご希望も随時お受けしておりますので、お気軽にエントリーください!
お待ちしております。