飲み会をもっと良くする“設計思考”―幹事業で磨く小さなアジャイル

こんにちは。アソビューでプロダクト開発に携わっているエンジニアの進藤です。

突然ですが、エンジニア的思考とは何でしょうか。

アソビューでは、スクラムを前提としたチーム開発を基盤に、フルサイクルエンジニアリングを理想としています。それは単に幅広い技術領域を扱えることだけでなく、「遊び」という体験を支える仕組みを構造的に設計し、継続的に改善していく姿勢のことだと私は考えています。コードもチームもプロダクトも、すべては顧客の体験価値を支える仕組みの一部として捉え、全体を俯瞰しながら最適化していく。

少し意外に思われるかもしれませんが、飲み会の幹事も――まさにこの“エンジニア的思考”の実践の場です。会の目的を定義し、メンバーの期待値を調整し、コストやリスクを見積もり、当日の体験を設計し、終了後にはふりかえりを行う。まるでひとつの小さなプロジェクトのようです。

幹事というと雑務の代表のように見られがちです。しかし、見方を変えれば「人が楽しむ仕組みをデザインする仕事」でもあります。アソビューが大切にしている“遊びを支える技術”の延長線上に、飲み会もあるのです。

この記事では、そんな視点から「エンジニアが幹事をやると何が見えるのか」について紐解いてみたいと思います。

本記事の執筆時期は十一月上旬。
きたる忘年会、新年会シーズンに備え、何かしらの気づきや学びになれば幸いです。

※ 本記事はやや長めです。最後に「工程別の要点まとめ」を置いてあります。時間がない方は、そこだけ読めば“幹事業の再現性”を最短で確認できます。

ビジネス飲み会の原理原則

まず最初に、ビジネス飲み会の原則について認識を合わせておきたいと思います。

飲み会の本質は、単なる親睦や慰労ではなく、日常のビジネスリスクを抑止することにあります。仕事上のトラブルの多くは、情報の齟齬や感情の行き違いから生まれます。とはいえ、日常的な業務の中でそうしたリスクの芽を早期に察知し、顕在化する前に防ぐ仕組みをつくることは容易ではありません。会議やチャットやクイックな口頭確認だけでは拾いきれない温度差や本音が、いつの間にかチームの不具合として表出することもあります。

飲み会は、「関係のコンディション」を調整する場です。互いの思考の癖や温度感を知ることで、見えないリスクの火種を前もって潰す可能性を内包しています。ビジネスはロジックで動いているように見えて、実際の意思決定を左右するのは最終的には個人の感情と熱量です。

だからこそ飲み会は、「自分にとって相手がどれだけ大切な存在か」を、あえて直接ではなく間接的に伝える場所として機能します。乾杯のひとこと、席の配置、帰り際の挨拶。そうした小さな所作の積み重ねが、信頼の残高を積み上げていくのです。

強制のある飲み会は、ビジネスのロジックとして破綻している

ここで誤解のないように補足しておきますが、私は個人の事情を無視した飲み会への強制参加や、体質・気分にかかわらずアルコールを強要する行為には明確に反対です。なぜならそれは、まさに「日常のビジネスリスクを抑止する」という本来の目的を阻害する要因以上でも以下でもないからです。感情論ではなく、ビジネスのロジックとしても誤っています。相手の選択や尊厳を無視する文化は心理的安全性を損ない、結果的に組織の健全性を下げるだけです。 いうまでもありませんが、アソビューにはそのような文化はありません。

アソビューによる社内のコミュニケーションデザイン

アソビューには、単なる飲み会とは違う人のつながりを創出するための仕組みがいくつもあります。例として「熱メシ」を紹介します。これは部署や職種を横断して交流を促す取り組みで、社内に選ばれたコミュニケーションリーダーが中心となり、開発・ビジネス・コーポレートなど異なる部門のメンバーを結びつけます。普段の業務では話す機会の少ない人とも対話でき、「お互いの時間を遠慮なく使い合う大切さ」や「称賛を可視化する仕組みの改善」など、実際に仕事を前に進めるための学びが数多く生まれています。

※ ご紹介した制度や取り組みは執筆時点の内容であり、時期によって変更されている場合があります。

幹事 = 雑務? いいえ、システム開発です

ここからが本題です。
飲み会の幹事をエンジニア視点で見てみると、驚くほど「開発」に似ています。

  • 要件定義を誤れば、設計以降がすべてバグる
  • 設計が甘ければ、リリース(当日)でトラブルになる
  • ふりかえりをしなければ、次回も同じ不具合が発生する

扱うのはコードではなく 人と空気 。
可視化もログも残らない世界で、体験をデザインし成果物として“楽しさ”をリリースする。
ここに、エンジニア的思考のすべてが凝縮されています。

開発と幹事の対比表

要件定義:誰の・何のために・どんな会を開くのか

要点:目的・主役・制約を固めない幹事は、100%後工程で事故る。

最初のステップは要件定義です。 要件定義とは、目的や制約、期待値を曖昧な会話やイメージから構造化し、誰が見ても同じ理解を持てるようにする作業です。飲み会でも同じで、「誰が」「何のために」「どんな会を開くのか」を言語化せずに動き出すと、後の工程で不整合が起きます。

上司・同僚・部下の送別会なのか、チームの懇親会なのか、プロジェクトの打ち上げなのか。会には必ず目的があります。この目的は、すべてのUI要素──会場、構成、進行テンポ──の親ノードにあたります。ここを誤ると、下層の設計すべてがバグります。

たとえば、送別会をクラブでやってはいけません。送り出す言葉も送り出される言葉も、ビートに乗ってしまえばただのサイファーです。一見盛り上がっているようで、趣旨とまったく異なります。 逆に、打ち上げを料亭のような静かな空間でやるのも同様にバグです。試しにGoogleの画像検索で「打ち上げ」と入力してみてください。同僚の乾杯写真と並んで打ち上げロケットの画像が出てきます。打ち上げに求められるバイブスはまさにこのエネルギー感であり高揚感です。静寂の中では推進力が得られません。

もうひとつ重要なのは制約条件の定義です。予算、人数、開催日、立地、アレルギー対応、喫煙可否──これらは会を現実に接続するI/O要件のようなものです。入力(予算・日程・人数)が曖昧なままでは、出力(体験の質)を正しく制御できません。幹事はこの制約条件を整理し、どこが可変でどこが固定かを明確にしておく必要があります。

要件定義とは「理想の体験」と「現実の条件」のあいだにインターフェースを作る仕事です。この接続点を誤れば、どんなに魅力的な企画でも実行時にシステムは動作しません。幹事の要件定義とは、感情や勢いではなく、限られた条件の中で人が楽しく過ごせるロジックを設計することなのです。

設計 ~ UX最適:要件定義という理想をリアルにブレイクダウンする

要点:情報設計が会の成功を左右する。空気と会話の流れをデザインする工程。

要件定義で目的が定まったら、次はそれを設計に落とし込みます。設計とは、目的を実現するための構造を定義すること。エンジニアリングでは、機能要件(何を実現するか)と非機能要件(どのように実現するか)を整理しますが、幹事業務においても同じ考え方が通用します。

たとえば「チームの関係性を深めたい」という目的があるなら、機能要件は「全員が会話できる構成にすること」、非機能要件は「騒がしくない環境」「移動コストが低い立地」「メニューの多様性」など。その目的を支える条件群です。アクセスの良さや料理・照明のバランスは、まさに非機能要件。直接成果を生まない裏方の要素ですが、そこを外すと会全体の安定性が崩れます。

一方、店選びはアーキテクチャ設計に近い行為です。個室を選ぶか、オープンスペースを選ぶか。それは情報共有の方式をどう設計するかに似ています。個室は少人数で深く話せる「モジュール分割型」構成、オープンスペースは全体の一体感を重視した「モノリシック型」構成。どちらが正しいかは状況次第で、重要なのは誰と何を共有したいかという通信内容を意識して選ぶことです。

さらに、設計時に考慮すべきもうひとつの要素がスケーラビリティです。開発でいうスケーラビリティとは、負荷の増加にどれだけ柔軟に対応できるかという性質。幹事業務でいえば「参加者の増減」や「急な変更」への耐性です。人数が増えても自然に席が広がり、減っても寂しく見えない構成を作れるか。これを見越して設計しておくことで、後半の“本番運用”コストを大きく下げられます。

そして、設計には必ず体験設計(UX)が伴います。UXとは、UIのような見た目ではなく「人がどう感じ、どう記憶に残すか」を設計すること。飲み会におけるUX設計とは、参加者が自然に会話を交わし、安心して自分の話ができる空気を生み出すデザインです。

その中核となるのが席次設計です。上司や主役を上座に置くのは単なる形式ではなく、「どの発言が最初に波紋を広げるか」という情報フローの起点設計です。また、普段関わりの少ないメンバー同士を無理のない範囲で近くに座らせるのは、“データの新しい経路”を生む設計的試み。チームのサイロ化をほぐし、新しい視点や関係性を生む確率を最大化します。

そして最後に、おみやげ設計。ここでいうおみやげとは物理的なギフトではなく、翌日以降の業務に活きる感情のフックのこと。「あのときの上司の言葉で考え方が変わった」「別部署の話から新しい連携のアイデアが浮かんだ」──そうした小さな気づきや共感の断片こそ、体験設計の最終アウトプットです。それらは各々の帰り道で静かに反芻され、翌営業日以降日常の中で少しずつ熟成しながら、新しいパースペクティブをもたらす。そうして得た視点が翌日のチームをわずかに変える。変化の余熱こそ、幹事が残す最高の設計成果物です。

幹事の設計力とは、限られた制約の中で構造と体験の両方を調律する力です。

リリース(当日) 〜 本番運用:当日トラブルは発生するものと理解しておく

要点:幹事の力量は、トラブルを“未然防止”ではなく“復旧速度”で測る。

どんなに丁寧に設計しても、トラブルは必ず発生します。これは開発でも幹事でも同じです。ドタキャン、遅刻、道に迷う、予約の聞き間違い、料理の提供遅延。こうした障害は、例外ではなく仕様です。本番環境では不確実性が必ず発生します。 例外処理を前提にシステムを設計するように、幹事もまた「起こりうる混乱」を見越して手を打つ必要があります。

たとえばドタキャンが出ても会計を破綻させないよう、単価と人数に余白をもたせる。お店が見つからない参加者には、地図のURLだけでなく写真付きのナビを用意しておく。エラーの発生をゼロにすることはできませんが、復旧時間を最小化することはできます。

そして、想定外の障害こそ、幹事にとっての本番環境テストです。冷静に対処し、誰も気づかないうちに復旧させられたとき、「運用が強い」と言われるエンジニアと同じように、幹事としての腕が上がります。

翌日以降のふりかえり:幹事もアジャイルでいこう

要点:UXは“当日”ではなく“次また来たいか”で測定する。

飲み会が終わったら、開発と同じくレトロスペクティブ(ふりかえり)の時間です。ふりかえりは反省ではなく、改善のためのデータ収集の時間です。一人でやってもいいし、複数人で幹事を分担しているなら、集まって会話する形式でも構いません。「何がうまくいったか」「どこに不具合があったか」を整理し、次に活かします。

  • 料理が多すぎた、もしくは少なすぎた
  • 店が想像以上に騒がしくて遠くの声が聞こえなかった
  • 1つのテーブルにまとめたことで席が遠く、会話ができないメンバーが多かった
  • 盛り上がりの山を作れなかった

どんな小さなことでも構いません。課題を言語化することで、次の開催コストは確実に下がります。そして、幹事業に向き合う心理的抵抗感も低減されます。幹事もアジャイルです。一度で完璧を目指すのではなく、小さな失敗を検証データとして蓄積していきましょう。

UX設計の成果は、当日の盛り上がりだけで測るものではありません。その体験がどれだけ理想に近づいていたかは、次に幹事をしたとき、何人がまた集まってくれるかでわかります。それは、飲み会という“体験の再訪率”を示す指標──いわばUXのKPIです。 楽しさの記憶がポジティブに残っていれば、人は再びその空間を選ぶ。だから幹事の仕事は、一次的な成功ではなく、再訪したくなる体験を設計することにあります。

完璧な幹事はいなくても、改善を続ける幹事はチームを強くします。 次も参加したいと思ってもらえたなら、それはもうKPI達成です。

こうして見てみると、幹事業には「開発サイクルのすべて」が含まれています。 要件定義・設計・最適化・運用・ふりかえり どれも私たちエンジニアが日々行っている仕事そのものです。

飲み会の幹事を面倒ごとと思うか、学びの場と思うか。 その違いを生むのは、指示やテンプレどおりに動くか、コードの先にいる“人の体験”を想像し設計できるか。 その姿勢の差だけであると私は考えます。

工程別の要点まとめ

要件定義フェーズ

  • 目的を定義する:


    「送別」「打ち上げ」「懇親」など、会の主題を一文で定義する。曖昧なら、主催者に「この会で何を達成したいか」を3行以内で言語化する。
  • 主役と参加者を整理する:


    参加者が部を跨ぐような場合、可能なら名簿を作り、立場・部署・関係性を簡単にメモしておく。上下関係や温度感を可視化することで、席順や進行テンポの基礎データになる。
  • 成功の基準を決める :
    
「笑顔が多かった」「主役の話を全員が聞けた」「翌日にSlackで感謝の投稿があった」など、具体的な“成功のシグナル”を定義しておく。
  • 制約条件を固める:


    予算・日程・場所・アレルギーなど、交渉が必要な条件を早めに確定する。できれば「この条件が崩れた場合の優先順位」もメモしておく。
  • 期待値をそろえる:
    
主催者・参加者・幹事自身の目的を擦り合わせる。「どんな雰囲気にしたいか」「形式かカジュアルか」を事前に確認し、齟齬を防ぐ。

設計〜UXフェーズ

  • 構造を定義する:
    「開会→乾杯→歓談→中締め→締め」など会の流れをタイムライン化し、各パートの目的と担当を整理する。送別会なら「感謝を伝える」場面をどこに置くかを明確にする。構造設計は、会全体のワイヤーフレームづくり。
  • 情報構造を設計する(席次):

    席順は情報の流れ。上座や下座など形式を押さえつつ、普段関わらない人を自然に隣に配置し、新しい会話の経路を設計する。複数卓の場合、可能であれば各卓に橋渡し役を1人置くことで会話の偏りを防げる。
  • スケーラビリティを担保する:
    「可能なら参加」は一旦参加扱いにして上限で予約を取る。人数変動があっても対応できるよう、店に当日調整の可否を確認し、可動テーブルなど柔軟な構成を選びます。変更耐性のある設計が、当日の混乱を防げる。
  • UXを設計する(現地下見):
    可能な限り下見を行い、駅からの距離、喫煙所や洗面所までの導線、照明や音量、周辺の二次会候補を確認する。参加者がどう動き、どこでストレスを感じそうかを把握する。幹事のUX設計とは、店ではなく“動線”を選ぶこと。
  • おみやげを設計する(感情の残差):
    おみやげは物ではなく、翌日思い出す“感情のフック”。可能であれば締めの挨拶は上司ではなくその会で最も注目された人物にまかせてみたり、翌朝に印象的な言葉をチームに共有するなど。小さな気づきを持ち帰ってもらうことで、次の日のチームが少し変わる可能性が生まれる。

リリース(当日) 〜 本番運用フェーズ

  • キャンセル対応に備える:


    キャンセル発生を前提に、単価×人数に余白を持たせる。会費を事前徴収にするか当日徴収にするかを決めておく。
  • 遅刻・迷子対策を準備する:


    地図URLだけでなく、ビル入口や看板など現地写真を事前共有する。幹事以外に「一次対応役」を1人置くと当日の負荷を分散できる。
  • 料理・提供遅延に備える:
    
コース内容を事前確認し、「遅延時に先出しできるメニュー」があるかをお店に確認する。可能であれば、飲み物だけが先に届く状態を避ける。
  • トラブル報告の導線を設計する:
    当日、参加者が困ったときにすぐ連絡できるチャットルームやメッセージスレッドを用意しておく。連絡経路を一本化し、情報の分散を防ぐ。
  • 最後の一人になるまで気を抜かない:
    会場から撤収するときに忘れ物が残っていないか、一次会から二次会の会場までの導線で迷子になっている人はいないかなど、ラストマンシップの精神で会の運営を最後まで見守る。

翌日以降のふりかえりフェーズ

  • 事実を記録する:
    トラブル対応後は原因を洗い出す。何が発火点だったか、どの対応が有効だったかを“ポストモーテム”として次回企画に活かす。当日の流れやトラブル、盛り上がりのピークを思い出せるうちにメモする。主観ではなく、客観的な事実を残す。
  • 定量・定性の両面で評価する:
    参加人数、会費、終了時刻などの数値に加え、「雰囲気」「余韻」といった感情の指標も記録する。
  • フィードバックを集める:
    可能であれば翌日、軽く感想を聞く。「楽しかった」「音がうるさかった」など率直な声をSlackやフォームで回収する。
  • 次回の改善アクションを決める:
    「料理を減らす」「席配置を変える」など、次回すぐ実行できる改善策を1〜2点に絞って明文化する。
  • 再訪率を確認する(UX指標):
    次に自分が幹事をしたとき、前回のメンバーがどれくらい再び参加してくれるかを観測する。これがUXのKPIであり、真の成功指標となる。

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